• オーダーメイド臓器モデル

がん研有明病院様
個別化シミュレーションを確立するための気管支モデルを製作

▶ 概要


中枢性の肺癌の手術などで必要となる気管・気管支形成再建手術(以降、再建術)は、難度が高く頻度が少ないため、臨床のみで手技に習熟することは徐々に難しくなっている状況と考えられます。一方、再建術の成否が癌の根治度や術後合併症にもつながるため、その手技を習得することは、極めて重要です。そこで、がん研有明病院 呼吸器センターの橋本 浩平先生は、再建術に習熟するためのプログラムに応用することを目的として気管支モデルを開発※1されました。
なお、当研究で製作したモデルについての2つの論文※2が、
2022年2月20日に『JTCVS Techniques』に掲載されました。

※1
当研究は、文部科学省および独立行政法人日本学術振興会により実施されている科学研究費助成事業(科研費)に採択され、2020年4月1日~2022年3月31日の期間に研究が行なわれました。科研費は、大学や研究機関での様々な研究活動に必要な資金を研究者に助成するしくみのひとつです。

※2
A3-dimensional airway model for tracheobronchial surgery

Patient-specific simulation for tracheobronchial reconstruction procedures using 3-dimensional operable models: A proof-of-concept study


▶ 
材料選定と硬度調整を繰り返し、組織によって異なる物性を表現。


今回もっとも注力した点は、気管支モデルを用いて模擬手術を行なう際、切除や縫合の感覚をいかに再現できるかです。
気管は、馬蹄形の軟骨部と、膜様部と呼ばれる筋繊維に富む膜部分から構成されています。この異なる2つの組織を表現し、かつ切除や縫合ができるよう、選定する材料に幅がある真空注型を採用。各組織に対応する2種の樹脂の選定とそれぞれの硬度調整を繰り返しながら試作を進め、弾力のある軟骨部と軟らかく伸縮性のある膜様部を表現しました。当研究では、実際に再建術を行なった術者が、気管支モデルを用いてその手技を再現できることも確認されました。
また、実際の症例のCTデータを用いて、病変部を表現したモデルも製作しています。橋本先生は現在このモデルを基盤として、患者ごとに個別化された術前シミュレーションを汎用化するためのさらなる研究を進められています。

▶ 術野を模した専用什器も製作。より実践的な模擬手術を可能に。


今回は、より実践的に手技トレーニングを行なえるよう、術野を模した専用什器も製作しました。什器内には、仰臥位や横臥位での気管支の角度と位置になるよう固定具を設置。什器の周囲に取り付けたスリット入りの縁取りが縫合糸の整理と保持を可能とし、視野をしっかりと確保します。また、気管支モデルを取り換えれば、手技の習得に必要な反復練習を行なうことが可能です。

 

▶ 橋本先生のご評価


気道の手術の際に重要な、軟骨部と膜様部の解剖と組織のコントラストの再現が特に重要と考えておりました。クロスメディカル社の技術でうまく作製できたと思います。今後は、このモデルを用いてより良い手術トレーニング方法の開発、個別化シミュレーションの確立のための臨床研究を進めていきます。