• オーダーメイド臓器モデル

夏目製作所様 手技訓練用モデル『NATSUME RAT』の製作

▶ 概要


株式会社夏目製作所様は、1946年の創業以来、動物実験に関する機材を製造販売されています。1990年以降、開発・販売されてきた手技訓練用のラットモデルも、製品のうちのひとつ。生体を用いず手技の精度を向上させることができるため、動物実験に関する3Rの原則である代替法の活用(Replacement)、実験動物のストレスの低減(Refinement)、実験動物数の削減(Reduction)に貢献しています。

従来のNATSUME RAT(以後、旧ナツメラット)は主に手作業で製作されていましたが、品質の向上と安定的な供給、より精度の高い手技訓練の実現のため、製作方法を見直されることになりました。そこで、これまで多くの臓器モデル開発の実績がある当社に、New NATSUME Rat(以後、新ナツメラット)の製作をご依頼いただきました。

▶ スキャンによる3Dデータ化の後、マスターデータを作成。


旧ナツメラットは図面や3Dデータがなかったことから、まずはその3Dデータ化から着手。Carl Zeiss社製の工業用高精度X線CT装置で旧ナツメラットを分解・破壊することなく、内臓を含めた全パーツの3Dデータを高い寸法精度で取得しました。モデルの3Dデータ化により、その後の形状を定量的に調整できるだけではなく、各パーツを成形する際に使用する治具製作を補助するために用いられる器具)を容易に製作することも実現していますその後、3Dデータをもとに、マスターデータ(モデルの元となるデータ)を作成しました。

▶ より精度の高いトレーニングを可能とする仕様を採用。


新ナツメラットは、旧ナツメラットで行なっていた各手技訓練が、より高い精度で行なえるよう様々な工夫を採用しています。

例えば、生体が動かないようしっかりと抑えておく『保定』では実験者の5本の指すべてを使って背中の皮膚をたくし込むように大きくつまみます。正しい保定方法を習得するためには、ラットの皮膚感触に近づけることが非常に重要で、その決め手となるのが腹部パーツの軟らかさと、表皮と内臓パーツの空間でした。そこで、腹部パーツ用に新たな軟質の樹脂を採用した上で、目に見えない内部空間の形状をCTスキャンにより3Dデータに反映させることで、求めていた感触を再現しています。

また、口から薬などを投与する際に、投与針の挿入を効率よくトレーニングするため、気管や食道、胃に挿入された針の位置を確認できるよう、腹部の一部に透明の樹脂を採用しています。新ナツメラットでは正しい操作をトレーニングすることにより実験動物の苦痛を軽減できるだけではなく、誤って気管に投与針が入る様を実際に見せながら教えることができるという点においても、生体の代替モデルとして大きな意義があるといえます。

 

▶ 製作期間とコストを抑え、均一な仕上がりで複製できる真空注型。


新ナツメラットを安定的に供給するには、コストを抑えつつ、効率的に製作することが必要となります。

今回、採用した真空注型という工法は、真空の状態でシリコーン製の型に樹脂を流し込みモデルを複製する技術で、ひとつの型から約20個のモデルを成形することができます。シリコーン型は金型よりも製作期間やコストを抑えられると同時に、型なしで一体ずつ手作りするよりも仕上がりを均一にするというメリットもあります。

そのため真空注型は、近年、樹脂製品を小ロットで生産する際の工法として注目されています。